市原悦子さんのご冥福をお祈りします。
市原悦子さんと共演させて頂いたのは、僕が、自由劇場を出て、初めて商業系の舞台に立った時です、蜷川幸雄さん演出の元禄港歌でした。その節は、大変お世話になりました。
初舞台なのに、クライマックスが、早変わりで、老人になり、しかも客席から、市原悦子さん、山岡久乃さんらと登場という、冷や汗ものの設定でした。客席から登場ですので、スタンバイが劇場ロビーになりまして、いつも、若いくせにスタンバイが遅い!と怒られながら、そのたびに、「早変わりで、しょうがないですよ」と言い訳していたような気がします。
このロビー待機という、なんとも中途半端な状況のお陰で、毎日、市原さんからお芝居のことを教わっていました。山岡久乃さんは、あまり話さないですからね。山岡さんが動くときは、平手とか、肘とか飛んできて、怒られますから。笑。(もちろん、山岡さんにも、超絶お世話になりましたよ。)山岡さんと違って、市原さんは、明るく、ちょっとユーモラスな話し方をしてくれます。でも、その演劇に対する情熱みたいなものは、本当にヒシヒシと伝わってきました。
僕の芝居をどうのこうのということは、一切言わないで、自分の芝居は、もっとああしたいんだとか、こんな芝居がしたいんだとか、そういった取り組み方を教えて頂いていたような気がします。ですから自然、市原さんのお芝居をついつい一生懸命、観てしまうんですよ。これ、元祖見て学べみたいな、お手本的な指導ですよね。
近松心中物語では、市原さん、はしごを駆け上がるシーンがあるんですが、それで、公演中に骨折してて、それでも、誰にも言わないで、骨折れたまま千秋楽まで演技し続けたって、しかも痛いなんてことは、微塵も見せない素晴らしい演技でしょう。そんな裏話を聞いたときは、マジ、熱い人だなと思いました。
そして一緒に、お買い物行ったり、夕ご飯の献立を楽屋で考えたり、日本昔話の収録を見学させてくれたりと、本当に楽しく、遊ばせて頂きました。
日本昔話の収録は、圧巻でした。常田富士男さんと、ふたり、初見で本番!アニメに合わせてナレーションするのは、神業でしょう!これを見せてもらったのは、本当に貴重な体験でした。
今、冷静に考えると、とてつもなく、ちょっと変なぐらい、いい人ですよね?初舞台の得たいのしれない、しかも芝居が無茶苦茶下手な若造にそこまで、いろいろとしてくださりまして、なんだろう、ほんとうに感謝感激であります。
心からご冥福をお祈りします。
合掌