帝劇の怪人 くまさんのこと
そんなタイトルの小冊子を頂きました。左から二番目の帽子かぶったおじさんが、くまさんです。日刊スポーツで、屋根の上のバイオリン弾き、森繁さんの裏方として大きく報道された。
くまちゃんは、東宝サービスに就職して、帝劇で清掃しながら、公演の間は帝劇のエレベーターの係をしておりました。一度会ったら、忘れられないぐらいのキャラがある人で、たぶんみんな、一度はエレベーターの乗車拒否をされたことがあるんじゃないのかな?帝劇の場合、入口が地下1階で楽屋は5階から上ですので、エレベーター乗るのを拒否されると、結構「え?」となるわけです。笑。最初は、意地悪なのかと思いましたが、舞台に慣れてきますと、くまちゃんが、芝居の内容をすべて把握していて、多いときは100名ぐらいの出演者をたった2基のエレベーターで、管理して、みんなが出番に間に合うように必要な人だけを乗せていることが分かってくるのですが、それがすごい技なのです。重要な役の人の場合は、エレベーターを呼ぶ前にもうその楽屋の階に待機しています、しかし、そのタイミングに役者が来ないと、今度は有名人であろうと、「遅い!」と言って怒るのです。
そんなくまちゃんのことを以前ブログで書いたのです。エレベーターのくまちゃん
そして、去年の暮れにくまちゃんの弟さんから、メールが届きまして、僕の書いたブログを小冊子に掲載したいとの事でした。くまちゃんは、退職されて、その後病気をしまして今は療養中だそうです。弟さん達は、何も話さない兄貴が、帝劇でどんな仕事をしていたのか、どのような仕事ぶりだったのか、全く知らなかったそうなのです。
実は、くまちゃんは、佐久間勉という名前で、佐久間さんからくまちゃんというあだ名になったのですが、家族の中では、勉だからトムちゃんだったのです。ところが、黒柳徹子さんの「トッとちゃん」という連続ドラマで帝劇のエレベーター くまちゃんの話が出てきたそうなのです。テレビの中ではエレベーターを運転していたのは熊のぬいぐるみだったのですが、弟さんは「ずいぶん似ている話があるもんだ」と思ったそうです。そして、ふと、あっ、トムちゃんは、くまちゃんだったのか!と気づいたのです。あわてて、ネットで 「帝劇 エレベーター くま」で検索をしたら、いっぱい出てきたというわけです。浜畑賢吉さん、藤田朋子さん、上条恒彦さん、や川崎麻世さんが笑っていいともで、くまちゃんの話題をしたこと、などなど、くまちゃんは、みんなに慕われていたことを、弟さんたちは、初めて知ったというわけです。それで、兄貴のために小冊子を作ろうと思ったそうです。
なんか、すごいドラマですよね。
くまちゃんの生き方だけでも、ドラマチックなのに、それに加えてこのお話は、またドラマチックだな~と思いました。中学卒業後、仕事が続かず10回も辞めて、そのたびに部屋にこもって、テレビを見てたばこを吸って、風呂も入らずに、一日中寝ている。そんな日を何ヶ月もつづける。家族が途方に暮れる中、親戚の方が、東宝サービスで働かないかと持ちかける、最初はなじめずに無断欠勤で、3回もクビになる。最後の無断欠勤は、ボーナスもらったら、そのまま失踪。一週間かえって来ず、警察に失踪届を出す。結局、お金が無くなったら、ひょっこり帰ってきた。そして、また謝って、再就職したという。東宝もなかなか懐が深いですね。
これを読んで、いろいろと合点がいった、たまに僕の部屋に泊まりに来たりしたのですが、風呂に入らないから、それなら帰れ!と無理矢理風呂に入れる。お金は、毎日使う分しか持たないから、うちに泊まると次の日のお小遣いは、僕が立て替えてた。風呂からでると、エロビデオあるか?と聞くから、あるよというと、見せろといって、早送りもせずにずっと見てる。笑える。そして、芝居の話をしながら、寝る。なるほど、お金持つと、失踪するわけね、だから、いつもお金持って無かったんだ。笑。でも、森繁先生とかに可愛がられてからは、だぶん失踪はなかっただろうな、だって、まるで自分の家の庭のように帝劇では、すばらしく堂々としていたから。芸術に携わっている自負を感じられたし、かっこよかった。だから、みんなからも慕われていたんだと思います。
今だったら、たぶん、完全に社会から排除されていたのかもしれないくまちゃん。昭和だから?許された破天荒さ?う~ん、それだけなのかな?なんでも、普通と違えば、とりあえず病気にしてしまう現代、なんか変わってる人で、許されていく昭和、どっちが生きやすく、そして、ドラマチックなのか、僕は、改めて考えさせられるわけです。戦後最大の景気回復と言うならば、もっともっと、寛容さが社会にあってもいいと思うのですが、現代ほど、弱者に厳しい社会はないんじゃないのかな?と思ったりもする。(これは、内緒ね)皆さんは、今のが洗練された社会だと思うのですかね?やはり。
くまちゃん、いろいろありがとうございました。長生きしてね。