故杵屋勝芳朗師匠から教わったこと
僕は、故五代目河原崎國太郎(人間国宝)さんの弟子を少しの間していた関係で、いろんな方と知り合いになれたのですが、その中に故杵屋勝芳朗師がいました。ある日、楽屋にやってきて、唐突にこう切り出しました。
勝芳朗さん「こいつは、舞台でぼーっと立ってるんだが、目立ってしょうがない。それで、俺にはよくわからんのだが、こいつの演技は、うまいのかい?ド下手なのかい?」
松山政路さん「う~ん、それは、俺にもわからん」
勝芳朗さん「よし、じゃあ、あんた、うちに来なさい、三味線は、使ってないのをあげるから三味線を習いなさい」
僕「はあ、えー?」
というわけで、勝芳朗師匠のところへ、通うことに、そこで、三味線の稽古はだいたい30分ほどなのですが、その後が長い!。なんと、舞台のビデオを見ろというのです。それが、今思えば、門外不出の無茶苦茶貴重なビデオばかりなのです。花柳章太郎先生の出演作品がずらっと、たくさん見せていただきました。どれくらい、貴重かと言いますと、実は松竹にもこの資料がなくて、お師匠さんのところへ、松竹のプロデューサーさんとかが来て見せてくださいと頭を下げて訪問しにくるぐらいでした。たぶん、これを読んでくださっている皆さんの中でも、誰も見たことないと思います。といった具合に、三味線の稽古だか、舞台の勉強会なのかわからず、だらだらとお師匠さんの家に入り浸っていたのでした。これを見せたかったんでしょうね、きっと。僕が芝居を始めた頃の新派は、水谷良重さんと波乃久里子さんの二枚看板の女優さんでしたから、女形がいらしたということすら、全然知らなかったのです。僕の師匠の五代目河原崎國太郎さんも、新派の花柳章太郎先生も女形の人間国宝として、ちゃんと見ておけと言いたかったのだと思います。
まあ、そんな流れで、その後、杵勝会の演奏会に出ることに、そこで「水の流れ」を弾きました。これは、僕がとても好きな曲でしたから、よく楽屋で弾いていました。それで、会に出て、びっくり!僕は、右も左もわからないど素人なのに名取りの偉い人たちが、みな僕に、丁寧に挨拶に来るのです!ご祝儀までたまるし!そうなんです。師匠は、とっても偉い人だったのです!笑。僕は、師匠の直のお弟子さんということで、この世界では、みな新人といえども、僕に気を遣うわけです。恐縮です。
今はユーチューブと良いものがあって、師匠の貴重な動画を発見しました!是非見てください↓
水の流れ(勝新太郎)杵屋勝芳朗師匠は、勝新太郎さんのすぐ後ろの人です。
そして、僕は、師匠からもう一つの大事なことを教わりました。勝芳朗師匠の集中観です。普段は、とても温厚で(毒は吐きますが)優しいひとなのですが、ひとたび三味線を持って、「いよっ」と言った瞬間に異次元の切れ味が出てくるのです。集中の頂点までの時間が、圧倒的に短いのです。僕が、それまで、オンシアター自由劇場とかで、学んできた演劇での集中世界とは、次元が違うと思いました。このスピードは、実は日本の伝統芸能において磨かれてきたものだと、今は思います。舞台の稽古が長いとどうしても、集中を時間をかけて作る習慣がつきます。それは、映像の世界では、ハンディになります。スタートがかかった瞬間に、トップスピードが必要なことがあるからです。その集中観は、実は、西洋演劇の中ではなく、日本の伝統芸能の中にあるのだということを、知ったわけです。これは、すごいことです。と勝手に、ひどく納得しておりますが、稽古中何度もかかるこの「いよっ」は、聞いた人しかわかないのかもしれませんが、すごいヒントなのです。このブログは、武士のならひですが、実はこの「いよっ」に集約されるかもしれないほどです。杵勝流か!?勝新太郎さんと同門ですか!(ごめんなさい)
そうか、映画のスタートも「いよっ」で始めたら、、ダメですかね?笑
※注意、今はもう弾けませんから、三味線。