アラン・コルノー監督に教わったフランス映画
この写真は、もう古いのですが、映画雑誌STUDIOの中の記事を撮りました。映画「マルセイユの決着」での撮影風景です。座っているのが、モニカ・ベルッチさんでその後ろに立っているのが、アラン・コルノー監督です。その右は、撮影監督のイブ・アンジェロさんです。雑誌を見てたら、僕の出演した映画と同じメンバーがたくさん写ってて懐かしいかったです。モニカ・ベルッチさんが、役の時代設定として、やくざの女はブロンドということで、染めたいと監督に申し出て、しかもこの時代的にはちゃんと染まってなくて根元だけ黒いところが少し残るという細かい設定がされています。この映画はまさにフランスのフィルムノワールと言われたギャング映画です。そして、監督にとって、原点ともいえるのが、こうしたフィルムノワールだったのです。制作費が68億円とか?監督が撮りたかった映画、僕にこの映画の夢を熱く語っていたのを今も思い出します。ただ、日本人はこの映画に出てこないんだと言ってました。涙。でも実現して良かったです。これも僕が出た映画が、なかなかの好成績だったおかげですね?世界20ヶ国以上で上映されたし、僕のギャラもモニカ・ベルッチさんよりもたぶん安いですしね(比較するな)笑。
まあ、それにしても、この僕がフランス映画「畏れ慄いて」のオーディションに合格したのは、びっくりものでした。僕にしてみれば、青天の霹靂といいますか、いきなり世界のトップクラスの現場に入り、しかも大事なシーンは、日本人は僕だけという完全アウエーという状況でした。後から聞いた話ですが、監督さんは、そうしたことを察して、スタッフには僕のことを、カトリーヌ・ドヌーヴさんやソフィー・マルソーさんの時の様に、いやそれ以上に丁寧に僕のことをお迎えしろと徹底していたようです。おかげで、ホテルから専属の運転手付きで、スタジオ入りする時は、スタッフ、事務方全員で、お出迎えという恐ろしい状況でした。笑。人は、周囲の視線で育つって奴ですね。それは、あながち間違ってないですね。イザベル・ユペールさんも役作りについて、そんなこと言ってましたね。共演者の自分を見る目が、役を作っていくんだって。(関連ブログ:イザベル・ユペール)
実のところ、この映画に出演する時、僕は芸能界というところに、夢を見いだせなくて、正直ちょっとうんざりしている時だったんです。理想と現実が乖離しすぎてて、なんかつまんない世界だなってね。そこへいきなり、ほんといきなりアラン・コルノー監督です。モニカ・ベルッチさんが、雑誌のインタビュー記事の中で、毎日が映画学校に通う様だったと、そしてヨーロッパ中の女優がみんな出演してみたいと願っている監督さんとして、大絶賛していたすごい監督さんなのです。こういうのを運命のいたずらというのでしょうか?
だいたい、オーディションで、ダメだしがあって、5分ぐらいのシーンを10分ぐらいダメだしして、あげくもう一回、挑戦してみるかい?って、えー?そんなの日本じゃ考えられませんよね??そして、現場で僕にこんな質問をしてきました。どうして、日本人は、役作りを家でしてくるんだい?この場で、みんなで作ろうよってね。現場は実験の場だよという。いやいや、日本の現場は発表の場であり、完成された役で臨まないと怒られますよ。だめでしょ!そんなことしたら、仕事無くなりますよ。笑。そして、そして、僕の相手役は、なんと天才女優のシルヴィー・テステューさん、彼女の集中観は、日本では味わったことの無いようなすごみがあった。そして、彼女が決して表情とかがカメラに映る事が無いアングルのときの芝居たるや、もう200%の力で攻めてくる。なぜ??この世界のトップクラスの女優さんの芝居を間近で見られるのは、僕だけという状況の恐ろしいほどの贅沢さ!笑。そして、カットがかかれば、僕に抱きついてきて耳元でささやく「あなたのおかげで、最高の演技ができました。ありがとう」ってね。
僕は、この撮影に入る前まで、現場というのは現実で、理想を追うところでは無いと思っていた。ギャラをもらう仕事というのは、そういう事だと、どこかであきらめていた。ところが、この世界の片隅で、(片隅は日本のほうか?)理想としか思えない映画の撮り方をしている人たちがいる、しかもそれがフランス映画界のトップにいる人たちだったという衝撃!これが、世界標準なら、楽しい!これなら、やっていける気がする!というか、夢がある!そう感じてしまった。
そして、監督さんが、僕のクランクアップの時に言った言葉、「我々は、この映画で、もうすでに大成功を収めた。この先、この映画が封切りされて、いろいろな映画祭にでたとしても、その先の結果なんて、もうどうでも良い話なんだ、今、こうして、君は日本からやってきて、我々は同じ時間を同じ場所で過ごし、そして一つのものを作りあげた。この事の事実そのものが映画であり、そのことが、またすべてなんだ。ありがとう!」ああ、これが世界最高補の現場なんだと確信した。フランスは、映画発祥の地であり、芸術として分野分けされています。ちなみにアメリカは産業で、日本は娯楽です。笑。まあそれは、どうでもいいや、とりあえず、もう、腹いっぱいにパリの空気を吸ったんだよ。ありがとう!そして、僕はこの時、自分の登っていた階段を、きっと踏み外してしまったんだなと今思う。